アリカロゴ Official Interview

 

 『鉄拳3D プライムエディション』スペシャルインタビュー

 
今回は2012年2月16日発売予定の「鉄拳3D プライムエディション」を記念して、

株式会社バンダイナムコゲームスの鉄拳プロジェクト所属の池田幸平氏、
第1事業本部第1製品戦略部部長の原田勝弘氏、
株式会社アリカ 第1企画部チームプランナーの高野将一氏、
ニンテンドー3DS(以下「3DS」)プロジェクト責任者三原一郎氏に、
本作の開発にまつわる様々なお話を伺いました。
(インタビュアー:株式会社グルーブシンク 松井悠)





『鉄拳3D プライムエディション』における役割

それでは、鉄拳3D プライムエディションについて、 どういった内容を担当されていたのか、お伺いしていきます。
池田 僕はプロジェクトの途中からプロデューサーを任されて、 プロジェクト管理を主にやっていました。
あとはゲームデザインの監修等も行っていました。プロデューサー兼ゲームデザイナーですね。
原田 私は、総合的にバンナイナムコの格闘ゲームを監督・監修している立場です。
シリーズプロデューサーですね。





高野 ゲーム制作の現場ディレクターです。
三原 アリカ側の担当プロデューサーで、3DSの開発担当です。


左:原田氏 / 右:池田氏


左:高野氏 / 右:三原氏



鉄拳をニンテンドー3DSで出すに至った経緯

鉄拳を3DSというハードウェアで出すに至った経緯についてお伺いします。
原田 ご存じの通り、もともと鉄拳シリーズはずっとPlayStationで出していて、 前回の「鉄拳6」からXbox 360を初めて出して、 携帯機バージョンとしても「鉄拳 DARK RESURRECTION」や「鉄拳6」をPlayStation Portableで出して いたんですけれども、意外と客層がかぶっていたんですね。

Xbox 360もPSPも、PS3も一緒で、もうちょっとすそ野を広げたいというのがもともとあって、 3DSのプラットフォームというのは我々が今まで相手にしてきた客層と実は異なるというのがわかっていたので、 そこに鉄拳を投下できたら、これはおもしろいんじゃないかというのと、ちょうどそのときに3Dの映画 (鉄拳 ブラッド・ベンジェンス)をやっていたので、そこに映画を乗っけるというのはおもしろいんじゃないか、 という話からスタートしたというのが経緯ですね。

だから、こぼれ話的な言い方をすると、「ソウルキャリバー」も本当は出しかったくらいなんですよ。 ただ、本体の機能をフルに使うという意味では、ゲームのほうと映像の3Dとこの2つができるというおもしろさの コンテンツを持っているのが鉄拳だったので、これは新しい客層に見てもらうにはいいプラットフォームだし、 いいタイミングだなと思ったので、鉄拳で出そうと。


アリカさんと一緒にやろうというお話になったというのはどういった 経緯だったんでしょうか。
原田 バンダイナムコゲームスでは3DSのタイトルは幾つか開発しているんですけれども、 特に鉄拳プロジェクトに至ってはスペックさえもどれくらいかわかっていなかったし、 まず、60フレームで動かすというのが大前提でキーワードも先行していたので、60フレームで動かせるのかね? というところも含めて、ノウハウをどこかに聞いてみようと。
社内、社外で聞いている中で、三原さんに聞いたら、「きっちり作れば60フレームで動くよ」という話を聞いたので、 というところがきっかけですね。
三原 「60フレームで鉄拳作れますか?」と聞かれて、
あれ?鉄拳作れるの?って喜んで作ったデモプログラムを原田さんのほうに「どうよ、これ」という形で。
そこからあとは原田君がとんとん拍子で進めてくれた、という流れですね。
それは2012年2月の発売でいつごろの話だったんですか。
原田 5月か6月ぐらい。
三原 E3に映像を出しているので(※1)、E3のちょっと前。ですかね?
原田 5月かな。
池田 そうそう、4月か5月くらい。

※裏話その1:E3で公開された映像の背景にガルダが出演している

比較的早いですね、1年たっていないので。
池田 そうですね。
原田 だって、「本当は年内に完成させよう」と言っていたくらいなので。
三原 最初は、「年内に20体くらいのボリュームで鉄拳出したいよ」からスタートしていて、
途中で、「実は3D映画があるんです」というのが入って、それはすごい、おもしろいよねということ になって入り始めたので、ちょっとスケジュールがその分後ろにずれてしまったと。
原田 映画は、最初、何の話もしていなかったです。映画の話は、 こっちはもともと出ていたんですけど。
ゲームは、とにかくキーワードとしては60フレで動かせる仕組みがもともと作れるか どうかというところだったので、
そこをテストで何かやってくれたら動いた。

そこで、技術的なところは全部アリカさんにやってもらって、
60フレで動かすとか、描画周りとか全部やってもらったら、
うまくいくんじゃなかろうか、ということで組もうということで組んでやりはじめたという感じですね。
鉄拳という、バンダイナムコさんもそうですし、
特に原田さんが自分の育ててきたタイトルという自負もあると思いますが、
そういった中で、アウトソースするということに対しては、逡巡がありませんでしたか?
原田 確かに、アウトソース自体は、確かにうちの会社でも一番やっていないタイトルですね。
一部、ムービーとかをアウトソースすることはあったくらいかな。
確かに、こういうゲームの軸となる内容をアウトソースするのは今回初めてなケースだったので、 ためらいはもちろんあったんですが……どちらかというとためらいというよりは、 それ以前に3DSをかなり研究して先行しているところというのはアリカさん以外にあまりなかったんですね。
ですから、そこからの情報がもらえるというのは相当でかいわけです。

なので、どちらかというと3DSの機能を引き出せるノウハウを既に先行して持っているというメリットを見た、 という感じですね。
基本的にはアニメーションのデータだったり、映画のCG自体もそうですけれども、 そういうデータ類はうちで作ったものなので、別にそれのテイストが変わるわけでもないので、 そういう心配はないですから。


ゲームコンテンツと映画コンテンツのフュージョン

それでは、ゲームのコンテンツと映画のコンテンツの両方を入れた 大きな理由というのは……。
特に映画に関してはこの前PlayStation 3の「鉄拳HYBRID」でも出ていましたが、 それを改めてNintendo 3DSに収録したねらいというのは?
原田 3D映像って、アメリカなんか例えば劇場で3Dで見るというのが けっこう当たり前ですが、
日本もようやく3分の1くらいは3Dでも見れるくらいにはなっていますけれども、 ほとんど家庭でも3Dのモニターはないんですよね。

鉄拳 ブラッド・ベンジェンスは別角度でわざわざレンダリングしているわけですよ、 CGなので。
2倍くらい手間かけてせっかく作っているものをぜひ3Dで楽しんでもらいたいんだけれども、 なかなかそういった環境がない。

鉄拳3D プライムエディションはさっきもお話ししたようにコンセプトとしては、 「今まで鉄拳は知っているけど、ちょっと興味ある程度、もしくは実際は見たことない、 やったことがあまりない」とか、「エンディングとかオープニングだけいつも楽しみにしている」という、 コアな格闘ゲームとはちょっと違う広い層に興味を持ってもらいたいんですね。

Nintendo 3DSは、気軽に安い値段で、立体視が見られるというのは、これはなかなかおもしろい。
それに、こちらの試みとしていることと客層とちょうど合致しているので、これをぜひ入れておきたいと。

映画の公開が去年秋口で、東京ゲームショウと一緒くらいでした。
その頃には、すでに本作に映像を収録することが決まっていたんでしょうか?
池田 決まって動いていました。
ということは、プライムエディションの開発が始まって すぐに決まっていたんでしょうか。
原田 でも、アリカさんに言ったのはもうちょっと後かな。
池田 そうですね。僕がプロジェクトを原田から引き継いで回し始めたのが7月の頭くらいで、
映画の話をしたのはたぶん8月くらいか7月の終わりくらいだったと思うんですね。

ちなみに、それを聞いたアリカさん側はどんなリアクションだったのでしょうか……。
原田 僕、知らなかったんですけど……知らずに言っているのも問題だと思うんですけど、 3DSの中にプレイヤーがあると思ってたんです。動画を入れたら再生できるプレイヤーが。

だから、プレイヤーのソフト部分、アプリケーション部分をバンダイナムコや、 アリカさんがわざわざ開発することはなかろうと思ったので、ムービーのファイルを3Dにしたデータを そのまま三原さんに渡すから、ゲームから再生できるようにしておいてくださいよ、という感じで渡したら、 まず「字幕を再生するプレイヤーがない」と言われたので、エッという感じで(笑)。
三原 最初聞いたときに「映画入れるの、凄くいいじゃん!、で、字幕どうするの?」と(笑)。
池田 すぐ連絡が来ましたね。
三原 映画を入れるという企画は、当然おもしろい。
ただ、実作業をする立場としては、容量と字幕の問題が頭に浮かびました。
容量はさておきワールドワイドでこの商品は売るものだと思っていたから、 字幕は絶対に必要だろうと。
それで聞いて直ぐに「字幕プレイヤー、どうするの?」という話になりましたね。
池田 字幕に関しては、ブラッド・ベンジェンスのブルーレイやDVD用の字幕データがあったので、 それをすぐにお渡ししてプレイヤーはなんとかしてもらおうと…
三原 そういう事情で字幕プレイヤーも、こっち(アリカ)で制作という事になりました。
高野 かなり大変でしたね。
原田 あと、ゲームも入って、本編にもいろいろ画像のデータが入っているので、 ROMのカートリッジの容量というのは携帯機なので限りがあるので、 あまりにもでかいことはできないなということで、容量のテストも相当したよね。
池田 そうですね。画質をある程度良くしたかったので……。
トレードオフになりますね。
池田 そう、トレードオフの部分で、まずは容量でこちらが想定する最高クオリティのもので やろうとしたら、ちょっと容量が厳しくて…。
エンコードの担当が社内にいたんですけど、その人とエンコード方式を試行錯誤してなんとか 満足のできる画質までもっていけました。
それだけでも、変な話、1カ月くらいかかりましたね。
原田 1カ月か1カ月半くらいだったかな。
三原 ところが、「満足のやつができた」とデータが送られてきても、今度は再生する為の 処理が追いつかないとかいう問題がででしまって。
絵を綺麗にする為に、容量を減らすために圧縮したデータをもらうと、 今度は処理が追いつかなくて、激しいシーンだけ止まるから、またこの部分を何とか クリップして再エンコードできないか? みたいな、これのずっと往復で、なんだかんだ、1カ月、2カ月、それだけで往復で大変でしたね。
池田 やっていましたね。
原田 たぶん一般の人もそう思うだろうけど、 映画とかムービーのデータを入れれば簡単に再生できているんだろうと思っているでしょうけど、 実際はそういう苦労があるわけです。
下手をするとゲーム一本作るくらいの素材の管理から。
三原 ファイル数はすごかったですね。
原田 これは、入っている映像が長ければ長いほど苦労する ということなんでしょうね、たぶん。
映画のボリュームは……。
原田 94、5分あるんですよ。音声も英語と日本語があって、対応する言語は……。
池田 ボイスは日本語か英語で、字幕はリージョンごとに違うんですけど、
最大で5言語分の字幕を持っていたりするので。
原田 そのチェックとか、さっき言ったように、場面によっては、処理落ちするところが あったりで、細かくやり始めるとものすごく時間がかかる。
池田 そういう意味では、三原さんがブラッド・ベンジェンス、一番見ているので(笑)。 何回見ているか知らないですけど

三原 毎日見ていた(笑)。
池田 毎日電話で「今日も見たよ」「何回目やわ」って言っていましたね、いつも。
そんな苦労と試行錯誤があったわけですが、 皆さんの手元に行くものは……。
池田 手に取って見てもらうと、「あ、こんなにきれいに3D映画が見られるんだ」というくらいに なっています。
実際にご覧になっていただくとすごく驚くと思います。
原田 皆さんが心配するほど、3Dの深度自体もメチャメチャ深すぎるとか出っ張りすぎる ということはないです。
アクション映画なので見やすい感じにはしているし、裸眼なので、暗いなという感じとかも そんなにない。
三原 元の映画自身が程良い深度部分で作られて、 そのまま3DS用にレンダリングしてもらってこっちに来たので、 私はフレームをキープすればよかっただけだったので、いい仕上がりになってますよ。
パッケージの値段が5,800円ですが、映画が入っているから 値段が高いわけではない?
原田 基本的には他のゲームと同じように。
ほんとに、鉄拳の映画も鉄拳のゲームも気軽に楽しんでもらえるようにしたかったんです。

寝る前とかベッドでジーッと見ながらもできるし、友達にも「ほらこれ、3D映画だよ」 って見せられるし、値段も気軽だしという感じで、全部気軽に考えていたんだけれども、 実は意外と大変だった。
動画を再生するくらい、そんな苦労するところってないじゃない、って最初は思ったんですが、 かなり大変でした。


お勧め視聴スタイル

プライムエディションで「鉄拳 ブラッド・ベンジェンス」を 見るにあたって、オススメの視聴スタイルはありますか?
三原 僕は、おそらく多くの皆さんはヘッドホンを付けてで視聴されるだろうな、 と思っていたので普通のヘッドホンをつけて聞いていました。
音の調整も凄く頑張ってもらっていましたね。
池田 そこはBlu-Rayで販売したものと違って、3DS用にうちのサウンドチームの人が ちゃんとチューニングして本体から出ている音声でも聞きやすく、イヤホンやヘッドホンで 聞いても綺麗に聞こえるように調整してくれたので、品質は保証できます。

携帯機史上最多の登場キャラクター数

やっとゲームのお話に入りますが、
まず登場キャラクターがキャッチコピーとして「携帯機史上最多の登場キャラクター数」 となっています。
原田 これね、俺、気づいていなくて、言われて気づいたの。
そんなにいっぱいいる格ゲーで、しかも携帯に使用されているのってそんなにないので、 そういう意味では確かに。
それを言われて初めて気づいた。これも容量を圧迫している理由なんですけど。
そして、ゲームモードが複数搭載されているということで、
やはりここはどれを入れる、どれを入れないみたいなのはやっぱり……。
高野 二転三転しましたね。
原田 幻となったのものもたくさんありますね。
高野 最初はアイアンタワーモード、
平八の塔を攻略していくというアイデアがありましたね。
それ以外だと3DSのカメラ機能を使って自分の撮った写真をキャラクターの顔に張り付けて 遊べる(※2)俺鉄モード、
先ほども原田さんから言われていたように、 すそ野を広めるという意味で、今までの鉄拳とは違った遊ばせ方をしたいという リクエストがありましたので、そういったモードも当初は考えていたんですが、
ムービーが入る、キャラクターも20キャラから41キャラに増えるというところから……。

※2
裏話その2:
E3バージョンでは、カズヤが岩田さんのお面、 平八が原田さんのお面を付けて遊べるモードがあった

最初は20だったんですか?
三原 人気のある20体と映画という雰囲気でやっていたんですよ、最初はね。
それが41に増えたわけですか。
高野 最初、私は映画の話も聞いていなかったので。
それで、映画を入れる話になって、計算すると容量が大変なことになって。
90分もある動画をいくら努力しても、容量が大変なままで、 さらに41キャラに増やして欲しいとか言われて……
映画が先で、そのあとに20から41に?
高野 そうです。
で、全部出したいと言われて(笑)。 確かにそうですよ、41キャラクターいるわけですから。
でも「何かモードを削っていかなければ容量的にも入らないですよね」という話になって、 まあ、そういった要素は削ったんですが、でも、やっぱりちょっと違った遊ばせ方という意味で 入れたいよねといって、案として上がったのが「鉄拳カード」です。

鉄拳は、やっぱり歴史がありますから、今までの懐かしい映像をもらえませんか、 とちょっと無理言ってお願いしまして、それを3Dの立体視で見せる形にして、 枚数を多くして、コレクションする、というモードが搭載されています。
今、鉄拳カードモードというお話が出ましたけれども、 今年で17年目でしたか、鉄拳シリーズは。
初代の平八のCGなんて、よく残っていましたよね。
池田 社内の鉄拳関係者に話をして、色んなデータを探してもらいましたね。
原田 もともと、全部、私のMOディスクに(笑)。
恐ろしいことに鉄拳データのほとんどは、鉄拳3くらいまでは全部DATのテープかMO。
しかも、「どこにありますか」と言われたら、「うん、うちの机のどこかにある」世界という、 おそろしい状態(笑)。

鉄拳のライブラリが意図せず充実していたと。 シリーズのファンからすると、カードを集めて、懐かしさにひたれますね。
原田 コアのほうはそういう楽しみ方をすると思うんだけれども、 今回買う人の大半が「ひどいな、これ」って言うと思う(笑)。
池田 たぶん、そっちですよね(笑)。
原田 たぶんポリゴンだったら何でも売れていていた時代ってあったじゃないですか。
ポリゴンというと、なぜかミリオン行っていた時代が国内でもあったんですけど、 こんなものでみんな満足していたんだという――満足はしていなかったのかもしれないですけど、 当時、なんで大騒ぎにならなかったんだろう、というくらいのCGなので、 そういう意味ではおもしろいですよ、別に知らない人でも。
17年でどれだけ技術が進歩したかと。
原田 そうなんです、それがけっこうおもしろいですよ。今や、別人ですからね。
まだ何ポリゴンというので競われていた時代ですからね。
その鉄拳カードなんですが、 全部で何枚用意されているんでしょうか?
池田 ナムコにかけて765枚にしてもらいました。
原田 意外と、実物見ると集めたくなりますよ。
雑誌とかネットで見ているよりは、この画面で見てもらえるといいですね。
池田 3Dになると、見た目もおもしろいなと。
原田 3Dの画面で見てもらうと、もうちょっと見たいかも、
というふうに絶対思うので。“すれちがい”で交換できるしね。



 操作感覚について

それでは、既存のユーザーを含め、3DSというハードウェアを 使って鉄拳をさわる人たちに一番気になるのが操作感覚なんですけれども、 そこに関してはいかがでしょうか?
原田 ばっちり対策されているよね。
池田 そこはすごく気をつかって。
高野 ほぼ完璧だと思います。
池田 そう、 かなり早い段階でアリカさん側からも提案いただいて、 それに対して鉄拳プロジェクトでもこういうふうにしたいというのを出し合って、 できる限りの労力をそこに割いて。
原田 コンセプトがさっき言ったように、今までのプレイヤーと違う人たちがさわれるように したいという意味ですから、決して十字キーとボタンの組み合わせをすごい速度で 使いこなせるようになってもらおう、というよりは「もうちょっと別のアプローチで 鉄拳のおいしいところだけ先に食べられるような仕組みができないか」というのは、 最初からずっと言っていたんです。
それはタッチスクリーンでコンボが登録できて、 ボタン一つで技が出るという要素もあり?
原田 そこは、逆にいうと他のタイトルさんでもけっこう工夫してやっているところなので、 タッチもいいけれど、タッチはタッチで特別な操作でしょう?
「格闘ゲームでタッチしにいくというのはどうなんだ、それ自体も手間じゃないか」 という話は最初からずっと言っていたんです。
池田 それをどうしようかなといって、お互いいろいろやりとりした中で おもしろいアイデアが出てきました。

アリカさんのほうから「シフト機能というのを考えた」という提案をされました。
三原 夜中に「いいのを思いついた」(笑)。
高野 大変でしたが、シフト機能はいいと思ったので、がんばりました。

シフト機能をさわらせていただいたんですけど、 最初、言葉で説明されるとちょっと面倒くさいなと思ったんですが、 いざやってみると、なるほどこういうことか、と。
高野 ユーザーさんが遊ぶときの持ち方とか、千差万別だと思うんです。
そうすると、こう持つ人はシフトを使うからいいけど、こう持つ人は左側だけしか使えないな、 そうするとLキーにもシフトは入れなきゃいけないなと。
原田 左右、同じ機能にしてあげないと。
高野 そうですね。その辺の試行錯誤もあって、今の形になったわけです。
当然、バンダイナムコゲームス側の方たちは鉄拳をずっと さわっていらっしゃる、その方たちも太鼓判を押すくらいに?
池田 そうですね、やるからには普段の操作感覚に近いところまで持っていって、
シフト機能でボタンだけ順番に押すだけで空中コンボを体験してもらうというところを 目標にやったので、そこはプロジェクトとして責任を持ってやらせてもらいました。
原田 ほんとうは今後の鉄拳の家庭用に関しては基本機能にしたいくらいなんですけどね。
シフト機能というよりか、総合的にコマンドを自分で組めるじゃないですか。

自分の好きな技を全部、ここのショートカットにはこれを入れておいて、 しかも普段は鉄拳操作もできるんだけれど、例えばきっかけで相手で浮かすことができたりとか、 壁に追い詰めたときに、どうしてもラッシュのコンボを入れるというのがパニくっちゃって できない人は、そのときにシフトキーを使って、1、2、3と順番に押すだけでドンドンドンと 攻めていける、ということだけはできる。

だから、操作によるアドバンテージ、操作の慣れ、不慣れによる試合の有利不利よりは、 思考の問題ですね。
戦略を立てるというところのレベルがもし同じであれば、操作の部分に関してはシステム側で できるだけカバーしてあげるよ、というのはあまり鉄拳ではやってこなかったトライなので、 これは今後、家庭用とか、別の新しいシリーズでやるときも、あってもいいんじゃないかな、 というふうに今回は思えたくらいなので、デファクトスタンダードにしちゃってもいいくらいに 思えるくらいのものにはなっていると思いますね。

3DS ならではの要素

続いて、3DSならではの要素についてお伺いしていきます。
高野 タッチスクリーンですが、LRに関しては、タッチスクリーンには技とあと鉄拳ならではの 同時押し、斜め押しですとか、縦押しですとか、横同時押しですとか、 いろいろなコマンドがあるので、固有技も当然登録はできるのですけれども、 固有技はこれとこれだけでいい、でも携帯機なので同時押しがちょっと難しい、 という人にはぜひ使っていただきたいと思います。
ちなみにタッチスクリーンのキーというのは、 キャラクターごとに登録ができるのでしょうか?
池田 そうです、キャラクターごとにコマンドリストから 好きな技を選択して登録できます。
高野 41キャラクター全部、自分でタッチスクリーンで4カ所の部分を個別にすべてセットして、 それが全部ちゃんとセーブされているという状態ですね。
原田 デフォルトで、キャラクターごとにタッチスクリーンの オススメセットが入っているんです。
それは、けっこう重要な話で、そもそもそのコンボだったり、技を組むこと自体がコマンドから 選ぶということ自体もハードルの可能性があるわけです。
それさえもクリアできるように、ちゃんとオススメを入れておこうよ、というのは最初から やっていました。
三原 そうですね、1、2、3と順番に入れると、1が当たった後に2を押して、3で、 というスタンダードなデフォルトを全部用意してもらって。
原田 4番目は大体、投げとかね。
池田 1が鉄拳の空中コンボの始動技の浮かせ技というのがあって、 次に2番のバウンド技というつなぎが入っている、最後に3番に締め技というものが 入っているので、基本的にユーザーの方には1、2、3とタイミング良く押してもらえば、 空中コンボがだれでも体験できるというふうにはしてあります。
原田 空中コンボだけではなくて、壁に追い詰めたときとか、 普段の駆け引きの中でもどうしても瞬時に思いついたことをやりたい。
ただ、手がついていかないという人はワンタッチでそれは実現できる、というのが、 かなりやっていて爽快な感じがするので、そこはぜひ試してみてほしいですね。
ちなみに、1P側から2P側の入れ替わりも自動で?
池田 もちろん、そこは大丈夫です。
三原 キャラクターごとにコンボが入る、入らないというのがあるので、 最後まで相当苦労はしてもらいましたね。
原田 対戦相手によって体型が違うので入らないのがあったら困るじゃないですか。
どんなプレイヤーでも同じ体型の、どんな組み合わせもできるようにと。
池田 さらに、見栄えがいいやつ、気持ち良さを重視しました。
原田 だから、さっきから言っているコンセプトは一貫しているのは、コアな人は自分で できちゃうんですけれども、ちょっとやってみたかった人とか、鉄拳のおいしいところを つまんで、「なるほどね、これは楽しいね、気持ちいいね」と思えることに関しては すごい細かく気をつかってやっています。

ネットワーク機能

ネットワークについてお伺いします。
Wi-Fi及びローカルネットワークの対戦なんですが、基本的にはほぼ同じことが できるのでしょうか?
池田 そうですね、基本的には同じことができます。 ランクマッチは、Wi-Fiのみとなっています。
気になるところとしては、 ネットワーク対戦でもゲーム感覚を維持しているのか、ということですが?
池田 実はオンラインプレイでも通常と同じゲーム感覚を維持しています。
格闘ゲームってすごくシビアなゲームで、 「有線のLANじゃないと話にならないでしょう」みたいな風潮がありますが……。
三原 今回、最初に原田さんからもお話が出ていますが、まず、鉄拳を3DSというハードに 置くことによって鉄拳を知らない人にも「鉄拳って、こうやって遊ぶんだよ」と 伝わるといいよね、と。ライト層を広げていくコンセプトがあったんです。

もう一つ、別の命題として、鉄拳は絶対60フレーム、60分の1フレームでやりたいと。
なおかつそれでいて3DSなんだから立体視。立体視で60フレームというのがあったんです。

プロジェクト的には60フレームで動かすというのが最優先だったので、 苦労はしましたが対戦でも60フレームでの描画、操作性を実現しています。

Wi-Fiでも同じクオリティを実現できていると思います。
バンダイナムコとアリカ間は回線が早かったので、Wi-Fi対戦でもローカルとそん色のない 対戦ができました。
かりにWi-Fi回線が残念ながら凄く遅くても、当然、回線が遅いからゲームは スローにはなるのですが、画面を見た感覚でちゃんとボタンを押してゲームが成立するように 調整しました。

要は、ラグるとコマンドとゲーム画面が合わない、押していたのにとか、ガードしていたのに というのがだめだったのをそうならないようにしたわけです。
無線だしな、とか、ネットワークだしな、という、 自分の中での補正とでもいうんでしょうか、そういったものをとっぱらっても……。
池田 ほんとに普通に対戦できるくらいだと思います。
原田 これは、家で寝ころんでできるというのはけっこういいと思いますよ。
わざわざテレビをつけて、電源をつけてとかやらなくても、 パッとできるのはちょっと魅力的かなと思います。


3DSならではの“すれちがい通信”

続いて、3DSならではという要素、 “すれちがい通信”について。
三原 映画の事やキャラ数を増やしたりした事もあって、時間的にすれ違い通信の企画は 見送られていたんですが、どうしても3DSなので“すれちがい”をしたいという アリカサイドの我儘を聞いてもらいました。

最初はプレイヤーのゴーストを移動しようとか、いろいろ意見はあったんですけれども、 たくさん集めたいとか、実際にすれ違いだけではなくて、プレイする気もUPさせてみたいよね、 ということで今回のカードモードを仕様が固まりました。

普段のプレイでカードが集まったものを3枚スロットに置いてすれちがって、 すれちがった中から、今度はゲームプレイ中に稼いだCP(カードポイント) を使って 自分の中で埋めていける。

要は、すれちがったらそのままもらえるというわけではなくて、すれちがって欲しいやつを 見つけたら自分でちゃんとプレイして、ポイントを貯めれば自分の好きなものが埋められる ということで、すれちがいもしつつ、ゲームもしつつのいい具合でループができればと。

そこら辺はかなり意見をいただいて、調整した上で今の形になっていると思います。
最初は1,000枚超えようと言っていたんですけど、容量の問題が発生したときに、 池田さんに765枚にしましょう、ナムコ枚にしましょうと言われたときに、 こっちも「はい、そうですね」と(笑)。
池田 容量と、あとネタの問題もあったんです。

池田さんのお気に入りの3枚は?
池田 そうですね。個人的には海外の雑誌の表紙で使用された「リリ」が 水着をつけているものが好きですね。
あれは見栄えが良くて、3Dで見るとまた違っていておもしろくて。
あとは自分がよく使う「ペク」とか「ファラン」とか、そういうところを推したいですけどね。
原田 「ニーナ」とか「シャオユウ」とかの昔のキャラがブスから進化していくさまを 3枚で表現したい(笑)。
えらい変わったね、みたいな、全然別キャラになっているじゃん、というのを 特に女性キャラで表現したいですね。
高野 私はCGではなくて、用意してもらった素材の中にイメージになった原画のイラストが 3Dで表現されているものを入れていきたいですね。

これからの鉄拳ワールド

これからの「鉄拳ワールド」の広がりについてお話を お伺いしていきます。

去年くらいから鉄拳というものが、今まではアーケードゲームから始まって家庭用ゲームへ、 というループで進んでいましたが、現在はフルCG映画があり、今、パチスロでも出ている中で、 けっこう広がっているというイメージがあります。

そういったところは原田さんの意向もあるのでしょうか?
原田 うーん……。いろいろなイベントを回るとわかるんですけど、 格闘ゲームを特別なイメージで見ている人が多いと思うんです、けっこうマニアックで、 コアで、対戦が好きな人というふうにみんな思っているかもしれないですけど、 実態を見ると、実はそうでもないんですね。

トーナメントに集まって盛り上がって、だれが強い、弱いと言っているのは、 それは珍しいほうなんですよ。
実は、世の中の7割くらいのファンの人は、対戦といったら友達同士、もしくは兄弟だけとか、 どっちかというと、このキャラクターが好きとか、世界が好きとか、アクションゲームとして 操作できるようになるのがおもしろいとか、多種多様な価値観で見られているというのが わかってきて。

僕らは、トーナメントでガリガリ対戦する人たちに何とか格闘ゲームとして認められたい、 もしくは楽しいといってもらいたい、そういうところに提供したいという思いでガーッと やってきた結果、鉄拳がシリーズを通して4,000万本という、 とんでもない数売れていて……これって格闘ゲームというカテゴリーではデータ上は 1番なんですね。
そこでいま、何が起きているんだろうと見に行くと、さっき言ったように7割くらいの人は、 実は鉄拳の楽しみ方というのが、決してみんなが大会を向いているわけではなかった というのがよくわかったんですね。

それに気づくのに、僕らのプロジェクトは時間がかかったんです。
あっ、そういえば、鉄拳はエンディングムービーとかオープニングとかストーリーとかで アホなことするし、意外といろいろ広いよね、ということで、必ずしも対戦でないということは、 キャラクターのグッズだったり、もしくは映画だったり、いろいろな楽しみ方をいろいろな 切り口で、いろいろな場所で遊べなきゃいけないんじゃないのかということを思うように なったのでいろいろ入り口を増やして、鉄拳ワールドを広く提供できるようにしていってる、 という感じですね。

コアなファンからすると「こんなの鉄拳じゃない」と言われる声が けっこう聞こえてくる部分もありながら、そうではなくて、「こういうの、待っていたんだよね」 という人たちのほうも、向いていきたいと。
原田 コアはコアで大切なんですよ。 常にオピニオンリーダーだし、鉄拳の時代を築き上げてきている層なので。

彼らの気持ちはわかるんですよ、僕ら自身がそれなので。
ですから、それに合った仕様だったり、それに合ったゲームというのは、できちゃうんですけど、 それ以外の人が……例えば100人中1、2人ならともかく、 下手したらそれが50人超えているという話になってきたときに、これは狭めている場合じゃないぞ、 というのがあるので、両方の声に応えるには、いろんなプラットフォームでいろんな遊び方を 提供する以外ないね、というのはちょっと思いました。

バンダイナムコゲームスとアリカのコラボレーション

それでは、最後に、今回のコラボレーションについての感想を お伺いします。
池田 すごく大変だったですけど、もの凄く濃密な時間を過ごせました。
アリカさんと話しながらやりたいことはかなり詰め込んで、プレイされる方が いろいろな体験ができるようなものを仕込んだので、ぜひ一回さわって欲しいですね。

対戦したり、映画を見てもらいながら、鉄拳の世界にひたってもらって、 この作品をきっかけに鉄拳の魅力にはまってアーケードの大会に参加するまでになってくれると 非常にうれしいですね。

また何か機会があったら一緒にやってみたいですね。
原田 ほんとに最初に言ったとおりですね。
今まであまり向いていなかったお客さんの層、特に今回の3DS版は今までと違う角度の 視点で作っているというのと、コアの人を満足させた上で、外側の人にも鉄拳のおもしろさ、 世界に触れられるもの、これをしかも気軽に……というつもりで作りました。

最初は気軽なつもりだったんですけど、結果的に開発にはかなり手がかかってしまいましたね。

でも、お客さんにとっては気軽なものとして実現したいというのがずっとあったのが 一つの形にはできたので、そういう意味での満足度はけっこう高いのかなと。
ぜひ、鉄拳、知っているけど、あまりよくわかっていないという人ほど、 手に取ってほしいなという思いはありますね。

高野 実は、個人的に鉄拳を結構やっていまして、さらにバンダイナムコゲームスさん の看板タイトルを担当させていただいたのは、非常にいい経験をさせていただい たと思っています。

そして、任された以上、対戦のパートを含めて、原田さんがおっしゃっていたコンセプトを 外さないようなものはできたかなというふうには思っています。

対戦ゲームなので、ネットワーク等であまり成り立たないようなものは作れないという ふうには思っていましたので、それはぜひユーザーの方々に手に取っていただいて、 対戦していただいて実感していただきたいなと思っています。

三原 今回、いろいろな試行錯誤はありましたが、こちらがびっくりするくらい バンダイナムコさんが鉄拳に対する情報を開示してくれました。
そのおかげで、自信のある仕上がりになったと思います。

鉄拳ってどうなんだろう、やったことはないけど気になるな」という人には ぜひプレイしてもらいたいですね。
タッチ機能を使って、コンボを覚えて、鉄拳の魅力である爽快感をぜひ体験して みてほしいです。
色々とお答えいただき、ありがとうございました。

おまけ






©2012 NAMCO BANDAI Games Inc.